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東京高等裁判所 平成8年(行コ)5号 判決 1998年5月27日

埼玉県八潮市大字大瀬八七三番地三

控訴人

高橋正夫

右訴訟代理人弁護士

佐々木新一

柳重雄

奥村一彦

山越悟

右訴訟復代理人弁護士

池永知樹

埼玉県越谷市赤山町五丁目七番四七号

被控訴人

越谷税務署長 飯塚要

右指定代理人

中垣内健治

赤池昭光

田中昇

齋藤隆敏

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被控訴人

国税不服審判所長 太田幸夫

右指定代理人

中垣内健治

赤池昭光

宮下吉輝

藤井正信

村井三郎

主文

一  原判決中控訴人の被控訴人越谷税務署長に対する請求に関する部分を次のとおり変更する。

被控訴人越谷税務署長が平成元年三月三日付けでした控訴人の昭和六〇年分所得税の更正のうち所得金額三〇四万〇二五四円を超える部分及び右超過部分に伴う過少申告加算税賦課決定を取り消す。

被控訴人越谷税務署長が平成元年三月三日付けでした控訴人の昭和六一年分所得税の更正のうち所得金額三六八万九三八八円を超える部分及び右超過部分に伴う過少申告加算税賦課決定を取り消す。

被控訴人越谷税務署長が平成元年三月三日付けでした控訴人の昭和六二年分所得税の更正のうち所得金額三三三万〇八四九円を超える部分及び右超過部分に伴う過少申告加算税賦課決定を取り消す。

控訴人の被控訴人越谷税務署長に対するその余の請求を棄却する。

二  控訴人の被控訴人国税不服審判所長に対する本件控訴を棄却する。

三  控訴人と被控訴人越谷税務署長との間に生じた訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人の負担とし、その余を被控訴人越谷税務署長の負担とし、控訴人と被控訴人国税不服審判所長との間に生じた控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人越谷税務署長が平成元年三月三日付でした控訴人の昭和六〇年分ないし昭和六二年分の所得税の各更正及び過少申告加算税の各賦課決定を取り消す。

3  被控訴人国税不服審判所長が平成二年四月一二日付でした控訴人の昭和六〇年分ないし昭和六二年分の所得税の各更正及び過少申告加算税の各賦課決定に対する審査請求についての裁決を取り消す。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

控訴棄却の判決。

第二当事者の主張及び証拠関係

一  当事者の主張は、次のとおり付け加えるほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決書の補正

(一) 三枚目表四行目の「「本件係争各年分」」の次に「又は「本件各係争年分」」を加え、同五行目の「別紙」を「原判決別紙」に改める。なお同様に引用する原判決中そのほかにも「別紙」とあるのをいずれも「原判決別紙」に改める(後記理由中の引用部分についても同様である。)。

(二) 同四枚目裏一〇行目の「「内田事務官」」の次に「又は「内田係官」」を加える。

(三) 同五枚目表九行目から一〇行目にかけての「合田公雄」を「會田公雄」に、同一〇行目の「会田事務局長」を「會田事務局長」にそれぞれ改める。なお同様に引用する原判決中そのほかにも「会田」とあるのをいずれも「會田」に改める。

(四) 同二八枚目表一行目の「当庁」を「浦和地方裁判所」に改める。

(五) 同三一枚目裏六行目の「越えて」を「超えて」に改める。

(六) 同三六枚目表五行目の「所得税法施行令」を「法人税法施行令」に、同裏七行目の「七2(二)(3)」を「七3(二)(3)」にそれぞれ改める。

(七) 同三七枚目表五行目の「三六万三七二六円」を「三五万五四四六円」に、同六行目及び一〇行目の各「一一万八二五九円」をいずれも「一一万〇八一七円」に、同裏六行目の「国税不服審判所」を「被控訴人国税不服審判所長」にそれぞれ改める。

(八) 同四四枚目裏一行目の「2」を「3」に改める。

(九) 同四五枚目表一一行目の「越える」を「超える」に改める。

2  控訴人の当審における主張(控訴理由及び主張の訂正)

(一) 収入金額とその立証責任について

(1) 被控訴人税務署長の主張する本件係争各年分の控訴人の収入金額は同被控訴人が反面調査により把握した収入実額であるところ、右収入金額は控訴人が本件訴訟で主張する収入実額と基本的に一致しているのであるから(昭和六〇年分及び昭和六一年分については控訴人の主張する収入金額が被控訴人税務署長の主張する収入金額を上回っている。)、このような場合には、被控訴人税務署長の反面調査の結果に収入の捕捉漏れがあると疑うに足りる理由がある場合等の例外的な場合はともかくとして、控訴人がその実額反証において他に収入のないことまでを主張立証する必要はないというべきである。そして被控訴人税務署長において捕捉できなかった収入があることをうかがわせるに足りる具体的な事情は一切存在しないから、右の例外的な事情はない。のみならず控訴人が主張立証した控訴人の収入金額は裏付資料があり正確であって、これが収入金額のすべてであることは明らかである。

(2)<1> 原判決は、控訴人が掛け売りはしないと供述していることと手形小切手により支払を受けていることとは矛盾すると判示するが、控訴人のような自営製造業者に対する代金が締切日に銀行送金または手形小切手により支払われることは常識的に明らかであって、控訴人の右供述はこのような決済方法をしていないというのではなく小売業者が対面販売の場合にするような種類の掛け売りはしていないという意味にすぎない。

<2> 原判決は、通常単発取引や雑収入取引があり、また現金による収入もあると推定されるのに控訴人の場合にこれがないのは不合理であるとも判示するが、右のような単発取引及び雑収入取引があるという経験則はなく、本件の場合にそれがあることが推定される事情については被控訴人税務署長は具体的な証拠を提出援用していないのであるから、右のように推定することは許されない。

<3> 原判決は、控訴人は仲間取引による仕事をしていたのにその取引による収入が計上されていないと指摘するが、仲間取引というのは注文を取るについて同業者仲間の援助を得ることを意味するのであり、その仕事により仲間から別途収入を得ることまでを意味するのではない。なお、みすみ金型製作所からの収入は、被控訴人税務署長の把握していなかった収入であるが控訴人には売上記録があるので本件で主張しているのであり、このような取引があることを隠蔽することは、控訴人が徴憑資料を操作する必要があるのみならず取引相手の協力まで得る必要があるのであって現実には不可能である。

<4> 原判決は、控訴人の預金口座の現金入金中に入金の理由が明白でないものがあると指摘する。しかし、控訴人には原審で主張した深刻な家庭の事情があり借金をしていたし、銀行口座は妻が管理していたからその全容は詳細には分からないところがあるが、いずれにしてもこの点については昭和六二年一二月一一日の四六万円の入金以外は控訴人が原審で具体的に説明しているところであり、右四六万円の入金の性質だけが解明できないとしてもそれ故に控訴人の収入金額に関する立証全体の信用性が排斥されるほどのものではない。

(二) 収入と経費との個別対応関係について

(1) 原判決は、経費については控訴人が収入との個別対応関係を立証することを要する旨判示している。しかし、一般に経費は収支対応し期間対応するものであればよく、その場合の収支対応性は納税者の営業目的、営業規模、営業形態との関連における相当性及び合理性に基づいて判断されるべきものであるから、経費のすべてについてどのような場合にも納税者が収入との個別対応関係を主張立証する必要があるということにはならない。そのような立証は、控訴人の場合には売上と外注加工費との個別対応関係については可能であるとしても、そのほかの製造原価、一般経費については事実上不可能である。そして、右の売上と外注加工費との個別対応関係については、控訴人は当審において完全に立証したところである。

(2) この点について被控訴人税務署長は種々反論を試みている。

<1> しかし、外注先星川プレスに関する被控訴人税務署長の反論は次のとおり失当である。すなわち控訴人は東洋工業株式会社に対しNO35411という製品を昭和六〇年六月一七日に一〇〇〇個、同月一八日に一〇〇〇個、同月一九日に二五〇〇個及び三九四個を納品しており、そのほかにも昭和六〇年四月二〇日に一〇〇〇個及び二五〇個を納品しているところ、右納品に対する後記<2>の外注先西垣製作所への外注及び西垣製作所からの納品はない。そして他方でNO35400という製品を控訴人が受注し納品した記録はない。以上によると、星川プレスが請求書等に記載したNO35400という製品名はNO35411の誤記であり、右製品は星川プレスから控訴人に納品された上東洋工業株式会社に納品されたと推認すべきである。

<2> また外注先西垣製作所に関する被控訴人税務署長の反論については、納品書の日付の記載に誤記があり得ること及び数回にわたる納品を特定の日に一括して納品したように記載することがあり得ることを考えるべきであるほか、西垣製作所から控訴人への外注品納品総数(二万三六五八個)が控訴人から東洋工業株式会社への納品総数(二万三六九六個)よりわずかに少ない点については、製品にミスがある場合に備えて西垣製作所から補充用製品が納入されることがありこのような場合の右補充用製品を正規に納品扱いするかどうかに違いがある場合に生じ得るものであり、取引の慣行上無視し得る差である。なお東洋工業株式会社に対する納品の日時が西垣製作所からの納品日時よりも相当遅れている点(いわゆる期ずれ)は次に中村加工所関係で述べる理由で生じ得るものである。

<3> 中村加工所関係の被控訴人税務署長の主張については、次のとおりである。すなわち控訴人の受ける注文はその都度個数が明示されるもののほか概括的に一定時期にどの程度で今回はこれだけという注文もある。控訴人としてはその注文を判断して一定の外注をするが、それが常に直近の売上に完全に結びつくとは限らない。注文者の都合で突然ある時期に注文が来なくなったり以前の注文が取り消されることもあるし、注文者の意向を付度した控訴人自身の見込発注もある。したがって控訴人がリスクを負い製品が在庫となる場合もあるのである。

<4> 同様のことは堀井製作所の関係にもあり、甲第三一一号証関係で三三七〇個、甲第六二三号証の関係で一二〇〇個が在庫となっている。

<5> なお、被控訴人税務署長は中村加工所及び堀井製作所関係の在庫分(仕掛品)に関する外注費は経費とすることができないと主張するが、仮にそうであれば右在庫分は廃棄したので同額(合計一万六二三五円である。)の廃棄損が経費として認められるべきである。また、控訴人の主張する外注費に期間対応の点で各主張年度の前年の経費として計上すべきものがあるとすれば、控訴人は予備的に右外注費を各前年の経費として主張する。

(三) 一般経費について

原判決は控訴人の主張する一般経費についても疑問点を指摘するが、右指摘の当否は次のとおりであり、またこれに関連して控訴人は原審における主張の一部を次のとおり改める。

(1) 新築祝

原審で主張した昭和六二年分経費中の接待交際費六八万〇二八八円中には新築祝経費二八万六八五〇円が含まれるが、右新築祝経費の主張を撤回し、代りに同年分経費として減価償却費一四万三〇四六円を計上して主張する。その計算は、次のとおり取得価格合計二四三七万三五三〇円を住宅分三対工場分二の割合に按分し、工場分取得価格九二三万四六七二円を耐用年数三〇年、低減減価率〇・〇三四として償却するものである。

総建築費(押見工務店) 二三四五万二三六〇円

測量費(石島調査士) 一三万四三二〇円

設計料(木幡設計事務所) 五〇万円

新築祝 二八万六八五〇円

合計 二四三七万三五三〇円

(2) 福利厚生費

<1> 従業員慰安旅行費用

原審で主張した昭和六〇年中の従業員慰安旅行費用について、従業員三名分の四万八二八六円から右従業員のした積立金によりまかなった三万六〇〇〇円を控除した残額一万二二八六円を同年分福利厚生費として計上し、同業者二名接待分三万二一九一円を同年分交際費として計上する旨主張を改める(右同業者二名には種々経営の相談に乗ってもらっていた。)。

<2> 駐車場代

昭和六〇年八月三日の二五〇〇円の計上を撤回する。

<3> 食事代

昭和六〇年八月二八日の二九五〇円の計上を撤回する。

<4> 残業夜食代

残業夜食代のうち原判決が家事関連費用に該当するとして否定した分は、昭和六〇年分が甲第八二号証、第八八号証、第九〇号証、第九二号証、第九五号証、第九七号証に関するものであり、昭和六一年分が甲第五八一号証、第五八四号証、第五九七号証、第六〇五号証に関するものであり、昭和六二年分が甲第七一〇号証に関するものであり、その合計は一万六二〇八円であるが、控訴人はこれらの計上を撤回する。

(3) 通信費

通信費は慣行上七〇パーセントが経費とされるべきであるから、昭和六〇年分は六万〇九三五円、昭和六一年分は五万八一九八円、昭和六二年分は五万四六三八円を計上し、その余は撤回する。

(4) 接待交際費

昭和六一年分接待交際費中六五〇〇円(甲第五〇一号証の手土産代)の計上を撤回する。

(5) 雇人費用

原判決は昭和六〇年分について従業員の勤務状況に関する証拠がないと判示するが、甲第三三一、三三二号証により控訴人がその主張のとおり雇人費用を要したことは明らかである。また原判決は昭和六二年分雇人費用について上半期の源泉徴収税を納付していないことを問題とするが、この点は次のとおりであり右費用の支払を疑わせるものではない。すなわち昭和六一年分の年末調整により鈴木喜美枝関係について源泉所得税の過納付分が八三三〇円発生したが、控訴人はこれを昭和六二年一月から七月分の算出税額合計八〇一〇円(一月分〇円、二月分三三〇円、三月分〇円、四月分一七〇〇円、五月分二〇一〇円、六月分二四三〇円、七月分一五四〇円)を用いて精算することとし、前記過納付分と右算出税額との差額だけを納付することにより精算したものである。

(四) 右主張の訂正の結果控訴人の主張する所得金額及び税額は本判決別表一に記載のとおりである。なお右別表では外注費の額も改めているが、これは計上年度を発生主義に基づき整理訂正した結果である。

3  被控訴人税務署長の当審における主張

(一) 控訴人の主張(一)は争う。

(1) 実額反証においては納税者はその主張する収入金額についてこれがすべての収入であることを合理的疑いを容れない程度に立証すべきであり、このことは原審で被控訴人税務署長が主張し、また原判決が判示するとおりである。そして、控訴人には原判決の指摘するとおり他に収入があったと疑うべき状況があるほか、控訴人が当審において外注費の実額立証のため提出した証拠中には次のとおり控訴人主張の収入金額と対応していないものがあり、この点からも控訴人には右対応関係を欠く外注費に対応する他の収入のあることが推認される。

<1> 星川プレスの関係

ア 控訴人は昭和六〇年一二月四日外注先である星川プレスに製品名「NO35400」五〇〇〇個の外注代金を支払っているが(甲三二六の一ないし四)、控訴人は右外注に対応する控訴人から注文先への納品及び代金受領の主張立証をしていないから、控訴人には控訴人の主張するほかに右外注分に対応する収入があるはずである。

イ 控訴人は昭和六〇年一二月三〇日星川プレスに対し「NO35400」四八七〇個の外注費九七四〇円を支払っているが(甲三二八の一ないし三)、これに対応する控訴人の売上があったことの主張立証がなく(控訴人自らこの関係は不明としている。)、したがって控訴人には控訴人の主張するほかに右外注分に対応する収入があるはずである。

<2> 西垣製作所の関係

控訴人は外注先である西垣製作所に対する昭和六〇年六月七日の一万七五〇〇円及び同年八月一日の二万九八一六円の各支払に係る製品が東洋工業株式会社に対し昭和六〇年二月一八日から同年九月二五日までの間に納品した製品と対応していると主張するようである。しかしこの関係で控訴人の提出する書証によると、西垣製作所から控訴人にされた納品の時期及び数量と控訴人から発注元(東洋工業株式会社)にされた納品の時期及び数量とには著しく不合理な相異があるのであり、西垣製作所から納品を受ける前に控訴人が東洋工業株式会社に納品したことになるものさえある。そして右納品の日時の前後は関係書類の誤記で説明できるとしても、少なくとも西垣製作所から同年四月一九日までに納品された製品一二五〇個(甲三一三の四)及び同年六月一七日に納入された製品四八九六個(甲三一七の一四)に対応する売上については、控訴人はこれがあったはずであるのにこの点を主張立証していない。

<3> 中村加工所の関係

控訴人は外注先中村加工所から納品された製品と控訴人がアサヒ商工株式会社などの取引先に納品した製品とに関する書証を提出し両者の間には個別対応関係があると主張するが、控訴人はそのうち昭和六〇年中に二件、昭和六二年中に一件個別対応関係が不明のものがあることを自認しているし、そのほかにも中村加工所から納品された製品のうちに取引先に納品していると認められないものが多々存在しているのであり、また控訴人の主張する中村加工所に対する外注費中昭和六一年二月五日及び昭和六二年二月五日の支払分はいずれも右各支払の前年の経費に計上すべきものである。なお控訴人は取引先に納品されている事実が認められないものについていずれも在庫になり最終的には廃棄したと主張するようであるが、その事実を確認できる証拠はない(仮に在庫となったのであれば右在庫に対応する外注費は経費に該当しないというべきである。)。かえって控訴人は廃棄したと主張する製品と同種の製品をその後も外注先に発注して製作させ取引先に納入している事実が多数回認められるのであり、在庫ないし廃棄の主張には信憑性がない。また控訴人は外注先への発注に関して注文者の意向を付度した控訴人自身の見込み発注もあり得る旨主張しているが、控訴人は材料を自ら仕入れたことはない旨供述しているのであるから右主張と供述は矛盾している。

<4> 堀井製作所の関係

外注先堀井製作所関係についても同様の問題があり、例えば堀井製作所に対する昭和六二年一一月五日の一五万七七五〇円の支払のうち同年八月二八日に納品された「スプリング掛」合計六〇〇〇個(甲六八四の八)の個別対応関係が立証されていないし(控訴人も自認している。)、昭和六一年二月五日、同年三月四日、昭和六二年二月五日及び同年三月五日の各支払はいずれも前年分の経費に計上すべきものである。

(2) なお控訴人が提出した請求書及び領収書の控は各用紙がいずれも五〇組(枚)綴りのものであるところ、次のとおりそのうちの数枚が破棄されており、控訴人の主張する収入金額以外の収入に係る請求書、領収書が発行されている疑いがある。すなわち、請求書控については、甲第九八四号証に係る綴りが二枚、甲第九八五号証に係る綴りが三枚、甲第九八六号証に係る綴りが三枚それぞれ破棄されており、領収書控についてはいわゆる耳の部分が控として残るものであるところ、甲第九八八号証に係る綴りが六枚、甲第九八九号証に係る綴りが二枚、それぞれ破棄されている。納品書控(甲一〇六七の二ないし一〇八三の二二)についても同様の事実が認められる。また控訴人の売上帳(甲九八二)はルーズリーフ式の帳簿であり、用紙の加除が可能であって、特定の取引先を取り除くことも可能である。そして、右売上帳には控訴人自ら収入金額に含めているみすみ金型製作所からの収入に該当する部分は存在していない。

(二) 同(二)は争う。この点も被控訴人税務署長が原審で主張し原判決が判示するとおりである。控訴人の主張立証によっても前記のとおり控訴人主張の外注費には控訴人主張の収入金額と対応せず、あるいはその対応関係が明らかでないものがある。

(三) 同(三)は争う。

二  証拠関係は原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし4の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件推計課税の必要性及び合理性について

本件推計課税の必要性及び合理性についての当裁判所の判断は、この点に関する原判決の理由説示(原判決書四八枚目表一一行目の冒頭から同六〇枚目表一〇行目の末尾まで)と同じであるから、これを引用する。ただし、原判決書四八枚目裏二行目の「結果」の次に「(いずれも原審)」を加え、同五一枚目表一一行目の「同月」を「一一月」に、同五二枚目裏九行目の「立会人を」を「立会人」にそれぞれ改め、同五六枚目表一〇行目の「証」の次に「(乙第六号証の一及び二、第八号証の二ないし一六は原本の存在、成立とも争いがない。)」を、同枚目裏七行目の「各証言」及び同五八枚目裏一〇行目の「結果」の次にいずれも「(いずれも原審)」をそれぞれ加え、同五九枚目表一一行目の「個別的要素」から同枚目裏五行目の「いので、」までを「個別的要素であるから、」に、同六〇目表一〇行目の「越えない」を「超えない」にそれぞれ改める。

三  控訴人の実額反証について

1  収入金額

(一)  推計課税は所得の実額を把握することができない場合に右所得に近似する所得を算出するため補充的に行われる課税方法であると考えられるから、適法な推計課税が行われた場合でも所得の実額が判明したときは推計の結果は維持できなくなるというべきであるが、推計課税がいったん適法に行われたものである以上、右推計の結果を覆すべき実額は納税者がその主張立証責任を負担してこれを明らかにすべきものと解するのが相当である。そして所得の実額を算定するにはその年中の総収入金額及び必要経費を知ることが必要であるから(所得税法二七条二項)、納税者の右主張立証(実額反証)においては右総収入金額も明らかにされる必要があり、またこの点が明らかにされない限り納税者が主張立証する経費の金額が収入を得るために直接要した費用に当たるかどうか(同法三七条一項)も明らかにし難い関係にある。なお、この場合右収入及び経費に算入すべき金額はいわゆる権利確定主義(発生主義)に基づいて認定されるべきであるが、その理由はこの点に関する原判決の理由説示(原判決書六二枚目表一行目の「所得税法」から同枚目裏九行目の末尾まで)と同じであるから、これを引用する。

(二)  そこで本件係争各年度における控訴人の収入金額について検討するに、前記引用に係る原判決の認定と証拠(甲九六二、九八二ないし一〇〇六、一〇一五、一〇四〇、一〇六七の一ないし五、一〇六八の一ないし四、一〇六九の一ないし四、一〇七〇の一ないし五、一〇七一の一ないし六、一〇七二の一ないし三、一〇七三の一ないし九、一〇七三の一〇の一ないし四、一〇七三の一一ないし三三、一〇七四の一・二、一〇七五の一ないし六、一〇七六の一ないし三、一〇七七の一ないし二二、一〇七八の一ないし一〇、一〇七八の一一の一・二、一〇七八の一二、一〇七九の一ないし五、一〇七九の六の一・二、一〇七九の七ないし一一、一〇七九の一二の一・二、一〇七九の一三の一・二、一〇七九の一四ないし三一、一〇八〇の一ないし三四、一〇八一の一ないし三二、一〇八一の三三の一・二、一〇八一の三四ないし三七、一〇八一の三八の一・二、一〇八二の一・二、一〇八二の三の一・二、一〇八二の四ないし七、一〇八二の八の一・二、一〇八二の九ないし一五、一〇八二の一六の一・二、一〇八二の一七ないし三一、一〇八三の一ないし一八、一〇八三の一九の一・二、一〇八三の二〇の一・二、一〇八三の二一・二二、一〇八五、一〇八六の一ないし二四、一〇八七、乙六の一・二、七、八の一ないし一七、九ないし一一、証人内田正雄(原審)、控訴人本人(原審、当審)。以上の書証のうち成立が不知とされているものはいずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認めることができる。以下の証拠関係について同様である。)によると、次の事実を認めることができる。

(1) 控訴人は自宅に作業所を設けて金属プレス業を営む個人であるが、本件係争各年度当時には継続的取引として東洋工業株式会社、株式会社清水精機、株式会社マツショウ、アサヒ商工株式会社及び有限会社奥村製作所からプレスの仕事を請け負い、昭和六一年中にはこのほかに富士精機株式会社からも同様の仕事を請け負っていた。

右取引先六社に対する各年度の売上は原判決別紙(二)記載のとおりであった。右売上額は、被控訴人税務署長が右各取引先について反面調査をすることにより判明した各取引先の控訴人からの仕入額について前記権利確定主義の観点から調整を施した金額であり、右六社の関係での正確な売上額である。そして控訴人も右六社との取引を記載した帳簿伝票類(売上帳、納品書(控)、請求書(控)、領収書(控))を保管しているが、その記載は右反面調査の結果を裏付けるものである。また控訴人は埼玉県信用金庫及び亀有信用金庫に普通預金口座を持っているが、右取引は右各口座の入金額等によっても裏付けられている。

(2) 控訴人はそのほかに昭和六〇年中に有限会社いすず工業の発注による仕事をして四万〇二七二円の請負代金債権を取得し(同年中にそのうち四万円の支払を受けた)、昭和六一年中にはみすみ金型製作所の発注による仕事をして二二万円の請負代金債権を取得し同年中に同額の支払を受けた。右各金額と前記(1)の各金額とを加えると、本件係争各年分の合計額は本判決別表二の「収入金額」欄に記載のとおりになる。

(三)  右のとおり売上があったことは前掲証拠上動かし得ないところであるが、被控訴人税務署長は控訴人にはそのほかにも収入があったと推認される旨主張するので検討する。

(1) まず被控訴人税務署長は、控訴人の業態に照らすと少なからず現金による収入が存在するのが普通であるから、控訴人に現金による収入が全くないこと自体が不自然であると主張する。前掲証拠によると前記認定の取引中には現金による支払がされているものがあることを認めることができるが、この点は別として、控訴人の業態だけで当然に右主張のようにいうことができることを認めるに足りる証拠はないから、前記認定の売上のほかに現金収入があることを具体的に推認させるに足りる証拠がない以上、右主張は採用することができない。

(2) 次に被控訴人税務署長は仲間取引(同業者間の仕事の回し合いとして同業者から仕事を請け負うことをいうものと解される。)について触れている。しかし控訴人が本件係争各年度において仲間取引をして収入を挙げたのではないかと疑うべき具体的な証拠はない。仲間取引に関係する証拠は原審及び当審における控訴人本人の供述だけであるが、右供述をもってそのような証拠とまで認めることは困難である。

(3) また被控訴人税務署長は単発取引を問題とするところ、前記みすみ金型製作所からの収入は一回限りの単発取引によるものであると推認される。しかし本件係争各年度においてそのほかに同様の単発取引があったのではないかと疑うに足りる具体的な証拠はない。

(4) 次に被控訴人税務署長は屑鉄等の売却収入等の雑収入があるはずであると主張するが、原審及び当審における控訴人本人の供述によっても本件係争各年度において具体的にそのような雑収入があったことを認めるに足りず、そのほかに右のような性質の収入があったことを認めるに足りる証拠はない。

(5) 更に被控訴人税務署長は、前記預金口座の入金と同口座から引き出された金銭及び総務庁統計局の家計消費年報による家計消費額の合計額とを対照すると、後者が前者を上回っている月が多く、各年分の総額においても同様であるとして、控訴人には右差額相当額を超える収入があったと推認される旨主張する。しかし右主張は控訴人の右収入だけが控訴人の家計をまかなっていたものであることを前提とするものであるが、甲第一〇四一号証、第一〇六六号証及び弁論の全趣旨によると、控訴人の二女久美子は本件係争各年度において有職者であり控訴人と同居して生活していたことを認めることができるし、後記のとおり控訴人夫婦は親戚知人から経済的援助を受けたこともあることを認めることができるから、右主張の前提は正当なものということができず、そのほかに右の観点から前記認定のほかに収入があった蓋然性があるというべき証拠はない。

なお前記預金口座には昭和六二年一二月一一日に四六万円が入金されている(甲第一〇〇六号証)が、本件の証拠上右入金の性質を確認することはできない。しかし、控訴人本人尋問の結果(原審)によると右預金口座は控訴人の事業用口座であると共に家事用の口座でもあると認めることができるところ、右の入金が事業上の収入であることを認めるに足りる証拠はなく、かえって右本人尋問の結果によると控訴人及びその妻は家計の必要に応じ親戚その他の第三者からしばしば借入していたところ右入金は妻がした借入に係るものである可能性を否定し得ないことを認めることができる。右預金口座にはそのほかにも前記認定の収入とは異なる少額の入金があるが、それらのうちに本件において控訴人に課税される収入とすべきものがあることを認めるに足りる証拠はない。

(6) もっとも、被控訴人税務署長は控訴人の外注関係に係る証拠をもって他に収入があったと疑うべき具体的な根拠としているので、この点について検討する。

<1> まず星川プレスの関係についてみると、証拠(甲三二六の一ないし四、三二八の一ないし三)によると、控訴人は昭和六〇年中に外注先星川プレスに「NO35400」(星川プレスの請求書に記載されている製品名)という製品五〇〇〇個及び四八七〇個を発注してその納品を受け、昭和六〇年九月二四日付けで前者について代金一万円の請求を受け同年一一月一四日付けで後者について代金九七四〇円の請求を受けたことが認められるが、控訴人が右製品をいつどこにいくらで売却したかを認定するに足りる確実な証拠はない。

しかし、次の<2>でみるとおり控訴人は昭和六〇年中に東洋工業株式会社から「NO35411」という製品の発注を受けこれを西垣製作所に外注に出して製造し東洋工業株式会社に納品していることが認められるところ、西垣製作所の製作に係る後記<2>の製品だけではその数量に照らして東洋工業株式会社に納品するのに足りないと考えられる。一方、証拠(甲九八二)によると、控訴人はNO35411という製品を東洋工業株式会社に対し昭和六〇年四月二〇日に合計一二五〇個納品していることが認められる。また、この事実と弁論の全趣旨とを合わせると、控訴人が右と同じNO35411という製品をその主張のように東洋工業株式会社に対し同年六月一七日から同月一九日までの間に合計四八九四個納品したことは十分あり得ることと認められる。そして、前記請求書に記載された「NO35400」はNO35411との類似性に照らすと後者を誤ってそのように記載することもあり得ないことではない。更に、外注先から納品された数量と発注元に納品する数量に差があり得ることは後記のとおりである。右のような事実関係を総合すると、星川プレス関係で被控訴人税務署長が問題とするところは控訴人主張のとおりの事情であったと推認することができるから、被控訴人税務署長のこの点に関する主張は結局採用することができない。

<2> 次に控訴人提出の証拠(甲三一三の三・四、三一七の五・六、三一七の九、三一七の一三・一四、一〇六七の二ないし五、一〇六八の二ないし四、一〇六九の二ないし四、一〇七〇の二ないし五)によると、控訴人は昭和六〇年二月二七日から同年七月一二日までの間に外注先西垣製作所からNO35411という製品合計二万三六五八個の納入を受け、他方で右製品を同年二月一八日(西垣製作所が控訴人に提出した請求書に附記された納入日の記載による。)から同年九月二五日までの間に合計二万三六九六個東洋工業株式会社に納入したものとされているところ(ちなみに前記<1>に関係する四月分は一五日と一六日に合計四〇〇〇個、六月分は一一日と一二日に合計二〇八七個である。)、被控訴人税務署長は、右証拠関係では同年二月二七日に初めて西垣製作所から納品された製品を同年二月一八日に東洋工業株式会社に納品したことになり、また同年七月一二日までに西垣製作所から納品された製品をその後同年九月二五日に東洋工業株式会社に納入したことになり、不合理であるし、西垣製作所からの納品個数及び東洋工業株式会社への納品個数が対応しているとはいえない状況にあると主張する。しかし、右証拠により認められる西垣製作所からの合計納品数及び東洋工業株式会社への合計納品数は相当多数であるところ、後者が前者よりわずかに三八個多いだけでほとんど一致している。このことと前記昭和六〇年二月二七日という日付の記載は同年一月二七日の誤記である可能性がないとはいえず、また西垣製作所が数回にわたる納品を一括して納品書に記載する可能性があることを否定し難く、更にこの点について控訴人が主張するような取引の実状もあり得るものであることを考えると、前記証拠関係に関する被控訴人税務署長指摘の問題点はいずれも重視し難いというべきである。控訴人の原審及び当審における供述は右のように認定する妨げになるものではない。なお被控訴人税務署長は、具体的に西垣製作所から昭和六〇年四月一九日に納品された製品(甲三一三の四)及び同年六月一七日に納品された製品(甲三一七の一四)について対応する東洋工業株式会社に対する納品の事実が認められないからこれに対応するほかの売上があったと推認されるとの趣旨の主張をする。しかし当審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、右製品は東洋工業株式会社の取扱い製品であり他に納入できるものではないことが認められるから、右主張は採用することができない。また右事実は前記のように同被控訴人指摘の問題点を重視し難いというべき理由ともなるものである。

<3> 更に被控訴人税務署長は、控訴人の外注先である中村加工所関係の取引についても中村加工所から控訴人が納品を受けた製品のうちに控訴人が発注元に納品した証拠のない製品があり控訴人は右製品を処分して他に収入を得ていると推認されるとの趣旨の主張をする。

被控訴人税務署長が問題とする証拠関係は、a 甲第三〇五号証の二と第一〇七八号証の二の関係、b 第三一六号証の二のうちメイハン折り一工程R・Lの関係、c 第三二五号証の二と第一〇七九号証の三一の関係、d 第六二六号証の二のうちM|CC3FA|4225Bの五〇〇個と第一〇八一号証の一七の関係、e 第六二六号証の二・三のうちアルミチリ切り一工程の部分と一〇七五号証の二ないし六の関係、f 第六二九号証の二と第一〇八一号証の二九の関係、g 第六三四号証の三の関係、h 第六七二号証と第一〇八二号証の一〇の関係、i 第六八一号証の二のうち二万九〇〇〇円とされている部分の関係及びj 第六八八号証の二の関係である。

このうちacdefghjについては、いずれも中村加工所からの納品数より控訴人が発注元に納品した数量が少ないから右の差について控訴人はその主張するほかの収入があったと推認されるのではないかという問題である。しかし、ac及びdはいずれもアサヒ商工株式会社、eは株式会社清水精機、fはアサヒ商工株式会社、gは東洋工業株式会社、hはアサヒ商工株式会社、jは東洋工業株式会社からの注文に係る製品であることがその品名と他の納品関係の証拠に照らして明らかであるところ、前記のとおりこれらの製品を右各発注元以外の者に売却し得るものであるとは認められず、かつ右各発注元への売上は前記のとおり漏れなく把握されているのである。そして右の数量の相違については控訴人が主張し当審で供述するとおりの理由で発生したものと推認することはそれほど困難でない。したがって、被控訴人税務署長が問題とする右の点は重視し得ないというべきである。

次にiについては、被控訴人税務署長の指摘する部分は製品名が不明であり控訴人が発注元への納品の事実を立証する手がかりが十分といえないものであるから、この点も重視するのは相当でない。

bの点は問題であり、前掲証拠によると外注代金にして合計五四三〇円の製品の処分方法が明らかでなく、被控訴人税務署長の主張のように控訴人はこの製品を前記認定の売上先以外の者に販売して収入を得た可能性があるといえなくはない。しかしこれより進んで右のとおり収入を得たと認めるに足りるまでの証拠はないのであり、かえって例えば控訴人の主張する理由(製品記号不明のため納品先照合ができない。)等のため納品との個別対応を確認できない可能性もまた否定し難いから、やはり重視し得ないものと認めるのが相当である。

<4> なお外注先堀井製作所の関係では甲第六八四号証の二・八のスプリング掛二口(合計六〇〇〇個)について発注元への納品の事実が明瞭とはいえない。しかし右製品は株式会社マツショウ用の製品であり(甲一〇八三の一五、一〇八五)、右会社に対する売上は前記のとおり正確に把握されているから、控訴人が右製品により右会社以外の者から収入を得たと推認するのは相当でない。

(7) 被控訴人税務署長は控訴人提出の請求書、領収書及び納品書(いずれも控)の各綴りに破棄された形跡があること並びに控訴人提出の売上帳の形態を問題とするが、いずれも控訴人に他の収入があったことを的確に疑わせるに足りるものではない。

そのほかに前記収入額の認定を覆すに足りる証拠はない。

2  経費

(一)  雇人給与

(1) 証拠(甲九六二、一〇一五、一〇四〇、一〇八五、控訴人本人(原審)。以上の証拠は経費に関する認定を通じて証拠とするものであり、以下では原則としてその都度の摘示を省略する。)のほか証拠(甲三三一、三三二)及び弁論の全趣旨によると、控訴人は昭和六〇年にはパートタイム従業員として制野喜久江、鈴木喜美枝及び八田孝一の三名を雇用し、同年の右雇人給与は合計二六六万九四九五円であることを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2) 証拠(甲三四〇の一・二、三四三、三四六、三四九の一ないし三、三五二、三五五の一・二、三五七の一・二、三六〇の一・二、三六二、三六四の一ないし三、三六七、三七〇、一〇八四)及び弁論の全趣旨によると、控訴人は昭和六一年には前記三名の従業員を雇用し(ただし制野喜久江は一一月で退職した。)、同年の右雇人給与は合計二八三万八四八〇円であることを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) 証拠(甲六三五、六三九、六四五の一ないし四、六五一、六五七の各一・二)及び弁論の全趣旨によると、控訴人は昭和六二年には鈴木喜美枝及び八田孝一の二名を雇用し、同年の右雇人給与は合計一二七万四六〇〇円であることを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。なお昭和六二年一月から七月までの源泉徴収税の関係は変則的であるが、右証拠と甲第一〇八四号証によると、この点は控訴人の主張するとおりの事情であり右給与支払の事実を疑わせるようなものではないことを認めることができる。

(二)  原材料費

(1) 昭和六〇年分

次の(2)で認定する三万一七二〇円は昭和六〇年分経費に計上することができる費用に当たると認めることができる。

(2) 昭和六一年分

甲第九八二号証によると、控訴人は昭和六一年中に東洋工業株式会社から原材料及び消耗品を仕入れたがその金額は合計七万七三八五円であることを認めることができる。甲第九八二号証の四〇枚目一二月二八日欄に記載された三万一七二〇円は同様の経費に当たると認められるが、昭和六〇年分経費に計上すべきものと解するのが相当であり、昭和六一年分の経費に該当しない。

(三)  消耗品費(控訴人が昭和六一年分「収入原価」中の「消耗品費」に計上して主張するもの)

(1) 次の(2)で認定するとおり三万六四五〇円を昭和六〇年分経費に計上することができると認められる。

(2) 証拠(甲三七四、三七五、三七六の一ないし四、三七七の一ないし三、三七八ないし三八二)によると、控訴人は昭和六一年中に石油製品等の消耗品を仕入れたがその金額は合計一二万一九五五円であることを認めることができる。甲第三七二号証の一・二、第三七三号証の一ないし四の合計三万六四五〇円も同様の経費に該当すると認められるが、右書証によるとこれらは昭和六〇年分経費に計上すべきものと認めるのが相当である。

(四)  修繕費(控訴人が昭和六一年分「収入原価」中の「修繕費」に計上して主張するもの)

甲第三八三号証によると、控訴人は昭和六一年中に修正代として四五〇〇円を要したことを認めることができる。

(五)  電力費

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲五六、五七、五九ないし六七)によると、控訴人は昭和六〇年分の事業用電気料金として合計五万一一五四円を要したことを認めることができる。

(2) 昭和六一年分

証拠(甲三八四ないし三九四)によると、控訴人は昭和六一年分の事業用電気料金として合計三万三四二二円を要したことを認めることができる。

(3) 昭和六二年分

証拠(甲六五九ないし六六二、六六四、六六六、六六九、六七〇、八三一、八四三、九九八)によると、控訴人は昭和六二年分の事業用電気料金として合計六万七一三九円を要したことを認めることができる。

(六)  外注加工費

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲三〇五の一ないし七、三〇七の一ないし四、三〇八の一ないし八、三〇九の一ないし三、三一〇の一ないし一一、三一一の一ないし一八、三一二の一ないし四、三一三の一ないし四、三一四の一ないし六、三一五の一ないし二〇、三一六の一ないし五、三一七の一ないし一四、三一八の一ないし一八、三一九の一ないし四、三二〇の一ないし七、三二一の一ないし一七、三二二の一ないし五、三二三の一ないし九、三二四の一ないし五、三二五の一ないし七、三二六・三二七の各一ないし四、三二八の一ないし三、三二九の一ないし四、三三〇の一ないし七、六一〇の一ないし三、六一一・六一二の各一ないし六)によると、控訴人は昭和六〇年中の外注加工費として一五八万四三六六円を要したことを認めることができる(右金額は甲第三〇一号証から第三三〇号証まで(枝番を含む。)の外注費から前年の経費に計上すべき甲第三〇一ないし第三〇四号証及び第三〇六号証(枝番を含む。)にある合計二三万七九〇八円を控除しかつ甲第六一〇ないし第六一二号証(枝番を含む。)により昭和六〇年分経費に計上すべきものと認められる合計二一万一六四四円を加えた金額である。)。

(2) 昭和六一年分

証拠(甲六一三の一ないし一一、六一四の一ないし三、六一五の一ないし五、六一六の一ないし五、六一七の一ないし三、六一八の一ないし五、六一九の一ないし七、六二〇の一ないし五、六二一の一ないし四、六二二の一・二、六二三の一ないし五、六二四、六二五の一・二、六二六の一ないし三、六二七ないし六二九の各一ないし四、六三〇の一ないし七、六三一ないし六三三の各一ないし五、六三四の一ないし一三、六七一、六七二、一〇一二の一ないし七、一〇一三の一ないし九、一〇一四の一ないし四)によると、控訴人は昭和六一年中の外注加工費として一四九万五九〇三円を要したことを認めることができる(右金額は甲第六一〇号証から第六三四号証まで(枝番を含む。)による金額の合計額から昭和六〇年分の経費に計上した前記甲第六一〇ないし第六一二号証(枝番を含む。)分の合計二一万一六四四円を控除し、更に甲第六二四号証にある埼玉エンジニアリング関係の二万一〇〇〇円(外注費用と認めることができない。)を控除した金額に、甲第六七一号証及び第六七二号証により昭和六一年分外注費と認められる合計二五万六一八〇円を加えたものである。)。

(3) 昭和六二年

証拠(甲六七一、六七二、六七四の一ないし六、六七五の一ないし五、六七六の一ないし三、六七七の一ないし七、六七八の一ないし五、六七九の一ないし七、六八〇の一ないし五、六八一の一・二、六八二、六八三の一ないし四、六八四の一ないし八、六八五の一ないし六、六八六の一・二、六八七、六八八の一・二、六八九の一ないし三、一〇〇七)によると、控訴人は昭和六二年分の外注加工費として一〇二万三九九五円を要したことを認めることができる(右金額は右書証による金額の合計一三一万三五七五円から昭和六一年分経費に計上すべき甲第六七一号証及び第六七二号証による前記合計二五万六一八〇円を控除し更に修繕費と認められる甲第六八二号証及び第六八七号証の合計三万三四〇〇円を控除した金額である。)。

(七)  法定福利費

(1) 昭和六〇年

証拠(甲六八ないし七〇)によると、控訴人は昭和六〇年に家内労働者労災保険料及び労働保険料(労働保険事務組合費を含む。)として合計一五万五七六七円を負担したことを認めることができる。

(2) 昭和六一年

証拠(甲四〇〇ないし四〇二)によると、控訴人は昭和六一年に同様の保険料として合計一五万五九二四円を負担したことを認めることができる。

(3) 昭和六二年

証拠(甲六九〇、六九一)によると、控訴人は昭和六二年に労働保険料として合計四万三〇八三円を負担したことを認めることができる。

(八)  福利厚生費

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲八三の一・二、八四、三三一、三三二)によると、控訴人は昭和六〇年五月中に従業員三名等の慰安旅行を行いその費用として六万二一二〇円を要したが、右旅行には従業員のほか二名が参加したこと、また控訴人は同年一月から四月まで右従業員三名から毎月三〇〇〇円の預託を受けその合計三万六〇〇〇円を右旅行費用に充てたことを認めることができるから、右旅行費用の五分の三である三万七二七二円から三万六〇〇〇円を控除した一二七二円が福利厚生費に当たると認めるのが相当である。なお控訴人は従業員でない右二名分の旅行費用は交際費(同業者接待費用)に当たると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はないから、採用することができない。控訴人はそのほかに福利厚生費を要したと主張するが、控訴人提出の証拠(甲七一、七二、七四ないし七八、八〇ないし八二、八三の一・二、八四、八五、八七、八八、九〇、九二ないし九五、九七ないし一〇〇、一〇二ないし一〇四、一〇七、一〇九ないし一一五、一一七、一一八、一〇一七ないし一〇二一等)によっては支払者、支払の趣旨・目的、受領者等のいずれかあるいはすべてが明らかでなく、これらが福利厚生費の支出に該当すると認めることはできない(もっとも控訴人はこれらのうち甲八二、八八、九〇、九二、九五、九七、一〇〇、一〇二に関する主張を撤回している。)。そのほかに右支出があったことを認めるに足りる証拠はない。

(2) 昭和六一年分

控訴人は福利厚生費(ただし得意先接待費及び傷害見舞金名目の出費の主張も含めている。)を要した裏付けとして多数の証拠(甲五七四ないし五七九、五八一、五八二、五八四ないし五九一、五九四、五九五、五九七、五九九、六〇〇ないし六〇三、六〇五、六〇六、六〇八、六〇九、一〇二八ないし一〇三三)を提出するが、これらだけでは(1)の後段と同様に右証拠に表れている出捐が控訴人主張の福利厚生の必要上されたことを確認することができない(もっとも控訴人は甲五八一、五八四、五九七、六〇五に関する主張を撤回している。)。そのほかに昭和六一年中に福利厚生費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(3) 昭和六二年分

控訴人の提出する証拠(甲六九二、六九三、六九七ないし七〇〇、七〇二ないし七一一、七一三ないし七一五、七一七、七一九ないし七二一、一〇三四ないし一〇三八)によっても(1)、(2)と同様に右証拠による支出が従業員の福利厚生費にあたる性質のものであることを確認することができない(もっとも控訴人は甲七一〇号証に関する主張を撤回している。)。そのほかに昭和六二年中に福利厚生費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(九)  消耗品費

(1) 昭和六〇年分

控訴人の提出する証拠(甲一四ないし一九、二一ないし四三、四五ないし五五、一〇一六)のうち、甲第三〇号証、第四六号証、第四八号証及び第五五号証に係る分は撤回されている。そして、残るうち甲第一六号証の分は前年分に計上すべきものであり、甲第二二号証、第二三号証、第二八号証、第三三号証、第四二号証、第五一号証、第一〇一六号証の分は品物が不明であり、ほかの資料からも経費性のある支出に該当することを推認することはできない。甲第五二、五三号証の分は経費性を認め難い。以上の分を除くと一応消耗品費として経費性の認められるものは合計四二万三五四五円であるが、このうち自動車用ガソリン・オイル代が合計二三万三三八五円ある。そして原審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、控訴人は自動車一台を所有しこれを事業と家事の双方に使用していたことを認めることができるから、右ガソリン・オイル代についてはその五割に当たる一一万六六九二円が経費に当たると認めるのが相当である。そうすると前記証拠により昭和六〇年分経費に計上することのできる消耗品費は三〇万六八五二円であるところ、これに次の(2)の甲第四〇三及び第四〇四号証によるガソリン・オイル代合計六万六〇四一円の同様の二分の一である三万三〇二〇円を加えると、右経費は合計三三万九八七二円になる。

(2) 昭和六一年分

証拠(甲四〇三ないし四二一、四二三ないし四三〇)のうち、甲第四〇三・四〇四号証の分は昭和六〇年分の経費に計上すべきものである。また甲第四〇五号証、第四〇七号証、第四一〇・四一一号証、第四一三・四一四号証、第四一七号証、第四二一号証、第四二五・四二六号証及び第四二八号証のものは、それだけでは具体的に控訴人の事業の経費に当たることを確認することができず、ほかの資料からも経費性のある支出に該当することを推認することはできない。そしてその余のものは各書証によると一応昭和六一年分経費に該当すると認めることができるところ、その合計額は二六万三九五九円である。しかしこのうちガソリン・オイル代が合計二六万二二〇九円あるからその二分の一である一三万一一〇四円を認容することとすると、結局右経費の額は一三万二八五四円になる。

(3) 昭和六二年分

控訴人の提出する証拠(甲七二二ないし七三〇、七三二ないし七三五、七三七ないし七四〇、七四二ないし七四五、七四七ないし七五二、七五四ないし七六〇、七六二、七六四ないし七七六、一〇三九)のうち甲第七二五・七二六号証、第七二八ないし第七三〇号証、第七三二・七三三号証、第七三五号証、第七三九・七四〇号証、第七四二・七四三号証、第七五二号証、第七五五号証・七五六号証、第七五九・七六〇号証、第七六五ないし七六七号証、第七七〇号証、第七七二号証、第七七五号証及び第一〇三九号証のものは、控訴人の昭和六二分の事業の経費に該当することを確認することができない。そしてその余のものは、各書証によると一応昭和六二年分経費に該当すると認めることができるところ、その合計額は三一万五九一五円である(甲第七四四号証のものは八三〇円、甲第七七一号証のものは一万九一〇九円である。)が、そのうちにガソリン・オイル代が合計二二万八九九一円あるから、これを前記のとおり二分の一として計算すると、経費の額は二〇万一四一九円になる。

(一〇)  地代家賃(昭和六二年分)

証拠(甲七七七)によると、控訴人は昭和六二年六月から同年一二月までの間継続して前記自動車の駐車場を借りその料金として一か月七〇〇〇円の割合による合計四万九〇〇〇円を要したことを認めることができるから、右駐車場料金のうち少なくとも五割に当たる二万四五〇〇円は昭和六二年分経費に当たると認めるのが相当である。

(一一)  保険料

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲一二〇)によると、控訴人は昭和六〇年六月一八日自賠責保険料として四万一八五〇円を支払ったことを認めることができる。そして前記(九)と同様の理由でその五割に当たる二万〇九二五円は経費として認容することができる。

(2) 昭和六二年分

証拠(甲七八七、七八八)によると、控訴人は昭和六二年中に火災共済掛金八九〇〇円及び火災保険料三万九六〇〇円を要したことを認めることができるが、控訴人の自宅部分及び作業所部分の区分が明らかでないから経費性のある部分を確認することができない。

(一二)  修繕費

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲一二一、一二三、一二四、一二五の一ないし三、一二六ないし一二八、一二九の一ないし三)によると、控訴人は昭和六〇年中に車両修理費として合計九万〇六五〇円、金型修理費として三万二四〇〇円を要したことを認めることができるが(甲第一二二号証の雨樋修理費は撤回されている。)、車両修理費については五割を経費と認めるのが相当であり、金型修理費は全額経費と認めることができる。以上の合計は七万七七二五円である。

(2) 昭和六一年分

証拠(甲四三一ないし四三五、六二四、一〇二六)によると、控訴人は昭和六一年中に自動車修理関係の費用三万三七五〇円、機械器具修理費用二万一〇〇〇円、排水工事費用四万五〇〇〇円を要したことを認めることができるが、そのうち最初のものは五割の一万六八七五円の限度で、二番目のものは全額がそれぞれ経費に当たると認めるのが相当であり、その合計は三万七八七五円である。最後のものは経費性のある部分を確認することができない。

(3) 昭和六二年分

証拠(甲六八二、六八七、七九〇、七九二ないし七九四、七九五の一ないし四、七九七ないし八〇〇)によると、控訴人は昭和六二年中に自動車整備検査関係費用として二六万一〇〇〇円及び金型等の機械器具類の修理費用として一二万七八〇〇円を要したことを認めることができる。このうち前者の五割である一三万〇五〇〇円及び後者の全額の合計二五万八三〇〇円は経費と認めることができる。なお甲第七九七号証と第六八二号証は同一の経費に係るものと認められ、また甲第七九六号証の分は具体的な内容が不明である。

(一三)  租税公課

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲一三二、一三四、一三五、一三七ないし一四一)によると、控訴人は昭和六〇年中に<1>印紙代八五〇〇円、<2>固定資産税・都市計画税二万一〇〇〇円、<3>自動車税三万九五〇〇、<4>重量税三万七八〇〇円を要したことを認めることができるが、<2>は事業に必要な部分を特定することができず、<3>及び<4>はその五割の三万八六五〇円を経費と認めるべきである。これと<1>の合計は四万七一五〇円になる。

(2) 昭和六一年分

証拠(甲四三七、四三八の一・二、四三九)によると、控訴人は昭和六一年中に印紙代三〇〇〇円及び自動車税四万一四〇〇円を要したことを認めることができるところ、右印紙代の全額と自動車税の五割は経費と認めるのが相当であり、その合計は二万三七〇〇円である。

(3) 昭和六二年分

証拠(甲八〇一、八〇四、八〇五)によると、控訴人は昭和六二年中に印紙代二〇〇〇円及び自動車税三万九五〇〇円を要したことを認めることができるから、右<2>と同様に計算すると二万一七五〇円を経費と認めることができる。

(一四)  旅費交通費

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲一三〇、一三一)によると、控訴人は昭和六〇年中に出張旅費として二万八六〇〇円、有料道路利用料金として一五〇円を要したことを認めることができるところ、前者は経費と認めることができるが、後者は事業との関連性があることを確認できないから経費とすることはできない。

(2) 昭和六一年分

証拠(甲四四〇ないし四四二)によると、控訴人は昭和六一年中に高速道路通行料として合計三八〇〇円を要したことを認めることができるが、事業に必要であったことを確認することはできない。

(3) 昭和六二年分

証拠(甲八〇六、八〇七)によると、控訴人は昭和六二年中に高速道路通行料として合計一二〇〇円を要したことを認めることができるが、右(2)と同じ理由で経費と認めることはできない。

(一五)  通信費

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲一八三、一八五ないし一九三、一九五)によると、控訴人は昭和六〇年中に電話料金として合計九万一一五〇円を要し(二月分は甲第一八五号証により六九六〇円と、四月分は甲第一八六号証により七五一〇円と認められる。)、また切手代として六〇〇円を要したことを認めることができる。そして右切手代は事業に必要な経費であったことを確認することができないが、電話料金は控訴人の前記事業形態に照らすと少なくとも五割は事業に必要な経費であったものと認めるのが相当であり、その金額は四万五五七五円である。

(2) 昭和六一年分

証拠(甲四四三ないし四四六、四四八ないし四五四)によると、控訴人は昭和六一年中に電話料金として合計八万三一四〇円を要したことを認めることができる(六月分は甲第四四九号証により五八三〇円と認めることができる。)。そしてその五割は四万一五七〇円である。

(3) 昭和六二年分

証拠(甲八〇八ないし八一六)によると、控訴人は昭和六二年中に電話料金として合計七万八〇五五円を要したことを認めることができる。そしてその五割は三万九〇二七円である。

(一六)  水道光熱費

(1) 昭和六〇年分

<1> 甲第一〇四〇号証によると、控訴人は本件係争各年当時前記電力費で認定した事業用電力とは別に更に二個のメーターによる電力の供給を受けていたこと、そのうち妻ヒロエ名義のものは事業用の電力に係るものであり、控訴人名義のものは家庭用の電力に係るものであったことを認めることができるところ、証拠(甲一四四、一四七、一五一、一五四、一五七、一六一、一六四、一六七、一七一、一七四、一七七、一八〇)によると右の事業用電力の同年中の料金は合計五万四九六五円であることを認めることができる。そして、右全額は同年分経費に当たると認めることができるが、控訴人名義のものの電気料金(甲一四三、一四六、一五〇、一五三、一五六、一六〇、一六三、一六六、一七〇、一七三、一七八、一七九関係)はこれが経費に該当することを認めるに足りる証拠はない。

<2> 証拠(一四二、一四五(八一八)、一四九、一五二、一五五、一五八、一六二、一六五、一六九、一七二、一七六、一八二)によると、控訴人は同年中にガス料金として合計一一万三八九〇円を要したことを認めることができるが、そのうち経費に該当すべきものがあること及びその金額を認めるに足りる証拠がない。

<3> 証拠(甲一五九、一六八、一七五、一八一、九九一)によると、控訴人は同年中に水道料金として少なくとも合計二万一五二〇円を要したことを認めることができるが、<2>と同様に経費として認容することはできない。

(2) 昭和六一年分

電気料金については、(1)<1>と同様にみると、証拠(甲四五五、四五七、四六二、四六六、四六九、四七三、四七六、四七九、四八三、四八六、四八九、九九五)により合計五万六〇二八円が経費に当たると認めることができる。

ガス料金(甲四五九、四六一、四六四、四六八、四七二、四七五(七九二〇円である。)、四七八(六六〇〇円である。)、四八一、四八四、四八七関係。少なくとも合計九万七六六〇円)及び水道料金(甲四六五、四七一関係。少なくとも合計八〇八〇円)は(1)<2>と同じ理由で経費とすることはできない。

(3) 昭和六二年分

電気料金については、(1)<1>と同様にみると、証拠(甲八二〇、八二四、八二八、八三三、八三七、八四一、八四七、八五一、八五五、九九七ないし九九九)により合計五万八九一八円が経費に当たると認めることができる(甲第八三一号証及び第八四三号証は前記(五)(3)の電力費に係る資料である。)。

ガス料金(甲八一七、八一九、八二三、八二六、八二九、八三九の一・二、八四四、八五六関係。合計八万八七八〇円)及び水道料金(甲八四〇、八四六、八四九、八五三、八五四関係。合計一万四二三〇円)は前記のとおり経費と認めることはできない。

(一七)  支払手数料

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲一九六ないし二〇一)によると、控訴人は昭和六〇年中のし尿汲取手数料として一か月当たり八〇五円の合計九六六〇円を要したことを認めることができる。そして控訴人の前記家族及び従業員の状況を含む事業形態に照らすと少なくともその二割に当たる一九三二円程度は控訴人の事業の経費と認めるのが相当である(昭和六一年及び六二年分の同様の手数料は後記雑費の項で判断する。)。そのほかに支払手数料を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(2) 昭和六一年分

証拠(四九〇、一〇五三の一・二)によると、控訴人は昭和六一年中に有限会社小幡建築研究所に対し公害防止関係施設の図面及び書類一式の作成を依頼しその手数料として三万円の経費を要したことを認めることができる。そのほかに支払手数料を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(一八)  接待交際費

(1) 昭和六〇年分

控訴人は多数の証拠(甲二〇二ないし二一九、二二一、二二四、二二六ないし二二九、二三〇の一・二、二三一ないし二四七、二四八の一・二、一〇二二ないし一〇二五)を提出している。そしてこのうち甲第二一九号証及び第一〇二五号証に係る合計一万五〇〇〇円は後記諸会費に含まれる性質のものであるが便宜ここで認容することとし、これと甲第一〇二四号証に係る五〇〇円を加えた合計一万五五〇〇円が経費に当たると認めることができる。しかしその余の書証に係る分は、いずれもこれが訴訟人の事業に必要な費用であることを認めるに足りる証拠はない。

(2) 昭和六一年分

控訴人の提出する証拠(甲四九一、四九三ないし四九八、五〇〇ないし五一五)に係る費用は、これらが控訴人の事業に必要な費用であることを認めるに足りる証拠はない(甲第五〇一号証に係る分は撤回されている。)。

(3) 昭和六二年分

控訴人は多数の証拠(甲八五八ないし八六一、八六三、八六五ないし八七六、八七八ないし八九四、八九六ないし九〇三)を提出しているところ、このうち控訴人が新築祝及び新築記念関係と主張している分(甲八八二ないし八八四、八八六、八九八に係るもの)は当審において控訴人が撤回しており、その余のうち甲第八六三号証に係る一万二〇〇〇円は控訴人の事業に必要な費用と認めるのが相当であるが、その余は右事業に必要な費用であると認めるに足りる証拠がない。

(一九)  諸会費

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲二四九、二五〇、二五二ないし二五四、二五六ないし二六三、二六五)によると、控訴人は事業のため加入している同業者団体あるいは商工団体に対する昭和六〇年分の諸会費として合計一二万七二〇〇円を要したことを認めることができる。甲第二五一号証、第二五五号証及び第二六四号証は控訴人と妻の全商連共済会費に係る領収書であるところ右共済会費が控訴人の事業に必要なものであったことを認めるに足りる証拠はないからこれを経費と認めることはできず、そのほかに経費に当たる会費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(2) 昭和六一年分

証拠(甲五一七ないし五二二、五二四ないし五二九)によると、控訴人は(1)と同様の昭和六一年分の諸会費として合計一〇万四一〇〇円を要したことを認めることができる。甲第五一六号証はみさと健和病院友の会の会費に係る領収書であるところ、右会費が控訴人の事業に必要なものであったことを認めるに足りる証拠はなく、そのほかに経費に当たる会費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(3) 昭和六二年分

証拠(甲九〇四ないし九〇七、九〇九ないし九一一)によると、控訴人は(1)と同様の昭和六二年分の諸会費として合計一二万七七〇〇円を要したことを認めることができる。そのほかに経費に当たる会費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(二〇)  研修費

(1) 昭和六〇年分

控訴人の主張する費用(甲二六七ないし二六九、二七一ないし二九〇関係)は讀賣新聞及び赤旗(日刊紙、日曜版及び学習党活動)の購読料金であるところ、これらが控訴人の事業の経費に該当することを認めるに足りる証拠はない。

(2) 昭和六一年分

控訴人の主張する費用(甲五三〇ないし五四五、五四七ないし五五〇、五五二、五五三関係)は(1)と同様の購読料金であり、これらが控訴人の事業の経費に該当すると認めるに足りる証拠はない。

(3) 昭和六二年分

控訴人の主張する費用(甲九一三、九一五ないし九三四関係)は(1)と同様の購読料金(ただし讀賣新聞でなく朝日新聞の時期がある。)であり、これらが控訴人の事業の経費に当たると認めるに足りる証拠はない。

(二一)  雑費

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲二九一、二九三、二九七、二九九、三〇〇)により認められるNHKの放送受信料金は、これが控訴人の事業上必要な支出であることを認めるに足りる証拠はない。またその余の証拠(甲二九二、二九四ないし二九六、二九八)により認められる支出についても、これが控訴人の事業に必要な費用であることを認めるに足りる証拠はない。そのほかに経費に当たる雑費の支出があったことを認めるに足りる証拠はない。

(2) 昭和六一年分

証拠(甲五五四、五六〇、五六一、五六四、五六七)によると、控訴人は経費に当たると認めるべき費用(交通安全協会費、産業廃棄物処理費)として合計九万三九〇〇円を要したことを認めることができる。また証拠(甲五五六、五五七、五六三、五六六、五六八、一〇二七)によると、控訴人はし尿汲取手数料として合計九六六〇円を要したことを認めることができるところ、前記のとおりこのうち二割に当たる一九三二円は控訴人の事業の経費に該当すると認めるのが相当である。以上の合計は九万五八三二円であるところ、その余の証拠(甲五五五、五五八、五六二、五六五)に係る支出はこれが控訴人の事業に必要な支出であることを認めるに足りず、そのほかに控訴人が経費に当たる雑費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(3) 昭和六二年分

証拠(甲九四三)によると、控訴人は産業廃棄物処理費として五〇〇〇円を要したことを認めることができる。また証拠(甲九三五、九三八ないし九四一、九四四、九四五、九四七、九四八)によると、控訴人はし尿汲取手数料ないし浄化槽清掃費として合計一万一三九〇円を要したことを認めることができるが、前記のとおりその二割の二二七八円は経費として認容するのが相当である。以上の合計額は七二七八円であるところ、その余の証拠(甲九三六、九三七、九四二、九四六、九四九)に係る費用は経費と認めることはできず、そのほかに控訴人が経費に当たる支出を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(二二)  支払利息割引料

(1) 昭和六〇年分

証拠(甲四、五、七ないし一三)によると、控訴人は受取手形の割引料として合計四万二八六二円を要したことを認めることができる。そのほかに割引料等を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(2) 昭和六一年分

証拠(甲五六九ないし五七三)によると、控訴人は受取手形の割引料として合計二万一七八四円を要したことを認めることができる。

(3) 昭和六二年分

証拠(甲九五一ないし九六一)によると、控訴人は受取手形の割引料として合計五万〇一一三円(甲第九五五号証は四一九四円、甲第九五七号証は三三二七円である。)を要したことを認めることができる。そのほかに割引料等を要したことを認めるに足りる証拠はない。

(二三)  減価償却費(昭和六二年分)

控訴人は新築に係る自宅兼作業所(工場)建物について居宅分と工場分を三対二の割合で按分したうえ工場部分について減価償却費の計上を主張するが、右の三対二の按分が正当であることを認めるに足りる証拠はないから、その余の点を判断するまでもなく、右主張は採用することができない。

四  本件課税処分の適否

以上によると控訴人の事業所得の金額は本判決別表二のとおり昭和六〇年分が三〇四万〇二五四円、昭和六一年分が三六八万九三八八円、昭和六二年分が三三三万〇八四九円であるから、本件各更正のうちいずれも右所得の金額を超える部分は取り消されるべきであり(なお控訴人は本件各更正のうち控訴人のした本件各確定申告に係る所得金額を超える部分の取消を求めるものであることが弁論の全趣旨により明らかである。)、本件各過少申告加算税賦課決定も右所得の金額を超える部分についてされた部分は取り消されるべきであるが、その余の部分は適法である。

五  本件裁決の適否

当裁判所も本件裁決には固有の違法はないと判断する。その理由は原判決書七〇枚目裏一一行目の冒頭から七三枚目裏一行目の末尾までと同じであるから、これを引用する(ただし、原判決書七一枚目表四行目及び五行目の各「証言」の次にいずれも「(原審)」を加え、同枚目表一〇行目の「二月九日」を「二月七日」に改める。)。

六  結論

以上の次第で、控訴人の被控訴人越谷税務署長に対する請求は主文第一項記載の限度で理由があるから認容すべきでありその余は理由がないから棄却すべきであるから、原判決中右請求を全部棄却した部分は主文第一項のとおり改められるべきであり、控訴人の被控訴人国税不服審判所長に対する請求は理由がないからこれを棄却した原判決は相当であり右被控訴人に対する本件控訴は理由がない。

よって、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条、六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(平成九年一〇月八日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官加藤英継、同北澤章功は転補のため署名押印することができない。裁判所裁判官 新村正人)

別表一

<省略>

別表二

事業所得金額の計算表

<省略>

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